(2025年発売の最新シンセサイザー「YAMAHA MODX Mシリーズ」を、初心者から上級者まで楽しめる視点で徹底レビューします!音質・操作性・機能性から旧モデルとの違い、さらに競合機種との比較まで、盛りだくさんの内容でお届けします。)
はじめに
2025年10月、YAMAHAから待望の新製品「MODX Mシリーズ」(MODX M6/M7/M8)が発表されました。初代MODX(2018年発売)以来約7年ぶりのメジャーアップデートとなる本シリーズは、同社フラッグシップであるMONTAGE Mの最新テクノロジーを継承しつつ、軽量・コンパクトさと手頃な価格を両立した次世代シンセサイザーです。ステージでの即戦力からスタジオ制作での柔軟性まで、幅広い用途に応えるパワフルな一台に仕上がっています。
本レビューでは、そんなMODX Mシリーズの魅力と実力を以下の観点から掘り下げます:
- 音質やサウンドエンジンの進化(AWM2、FM-X、AN-Xといった音源の特徴)
- 操作性の向上(ユーザーインターフェース、タッチスクリーン、パネル配置など)
- ライブ演奏・音楽制作への適応性(パフォーマンスモード、ライブセット機能、DAW連携など)
- 軽量性・可搬性と価格のバランス(持ち運びのしやすさやコストパフォーマンス)
- 旧MODX/MODX+シリーズとの主な違い(進化したポイントの整理)
さらに、同クラス他社製品との比較として、Roland Fantom-0シリーズ、Korg Nautilus、Nord Stage/Leadシリーズなどとスペックや特徴を比べてみます。それぞれの強みとMODX Mの位置づけが見えてくるはずです。
それでは、初心者の方にも分かりやすく、上級者の方にも参考になるよう丁寧に解説していきます!
音質とサウンドエンジンの進化
MODX Mシリーズ最大のトピックは、「音源エンジン」の大幅強化です。従来モデル(MODX/MODX+)が搭載していた2つの音源(AWM2とFM-X)に加え、新たにアナログ・モデリング音源「AN-X」が搭載されました。 これにより、AWM2(Advanced Wave Memory 2)による高品位なサンプリング音色、FM-Xによる煌びやかで複雑なFM音色、そしてAN-Xによるビンテージアナログシンセのような太く温かみのある音色まで、一台で網羅できるようになっています。まさにピアノやストリングスなどリアルな生楽器音から、DX7系FMシンセのデジタルサウンド、MoogやProphetのようなアナログリード/パッド音色まで、幅広いサウンドメイクが可能です。
AWM2音源(サンプリング音源): 波形メモリ容量は従来の約2倍となる10.7GBに拡張され、ピアノやオーケストラ音色など「生楽器のリアルさ」がさらに向上しました。例えば、新たに搭載されたCFXコンサートグランドピアノ音色は、ヤマハ最高峰のピアノ音源(CFXサンプリング第2世代)であり、その豊かな響きとニュアンスは圧巻です。さらにAWM2では1パートあたり最大128エレメントものレイヤーが可能となり、細かなベロシティレイヤーや鍵盤の離鍵音、共鳴音まで忠実に再現。これによりピアノやストリングスなどでも極めて表情豊かな演奏表現ができます。
FM-X音源(FMシンセシス音源): ヤマハ伝統のFM音源も引き続き搭載。8オペレーター方式によるFM-Xは、エレクトリックピアノやベース、デジタルパッドから効果音まで、複雑で進化的なサウンドを生み出します。MODX+で強化されたFM音源部のポリフォニー128音は本機でも健在で、厚みのあるFMパッドを和音で重ねても余裕があります。FM特有のエッジの効いたベルやエレピ音色も、モジュレーションやフィードバックを駆使して細かく作り込めます。AWM2音源とのレイヤーによって、アタックが滑らかなFMピアノにリアルなハンマー音をブレンドする、といった高度な音作りも思いのままです。
AN-X音源(アナログ・モデリング音源): 新搭載のAN-Xは、往年のアナログシンセサイザーの挙動をデジタルに再現するヤマハ最新のバーチャルアナログ音源です。2基のフィルター(10種類のフィルタタイプ)やオシレーター同期(ハードシンク)、リングモジュレーション、パルス幅変調(PWM)、さらにはオシレーター間のFM変調やウェーブシェイピング/フォルダまで備えています。また「ビンテージアナログ機の経年変化」をシミュレートするドリフト(微細なピッチ揺れ)や回路のエイジング設定も可能で、現代的な安定性とヴィンテージシンセの暖かみ・不安定さを両立できるのが魅力です。これにより、モノフォニックのリードやファットなベースから、広がりのあるポリシンセ・パッドまで非常に表現力豊かなアナログサウンドが得られます。AN-X音源は最大12音ポリフォニーですが(MONTAGE Mでは16音)、厚みのある音色を重ねても十分なボイス数と言えるでしょう。
3つのエンジンを自在に組み合わせられる「Motion Control Synthesis」環境も健在です。つまり、16パートで構成されるひとつの“パフォーマンス”内で、AWM2・FM-X・AN-Xの音色を同時にレイヤー/スプリットして使えるわけです。例えば「ピアノ+ストリングス+アナログシンセのレイヤー」や、「FMエレピ音にアナログパッドを重ね、左手でベース音をスプリットする」といった複雑な音色構成も可能です。総ポリフォニー数は3エンジン合計で268音にも達し、常識外れの余裕があります(AWM2パート最大128音、FM-Xパート128音、AN-Xパート12音の合計値)。これだけのポリフォニーがあれば、ライブで厚い音色を重ねたりDAWで多重録音する際も、まずボイス切れに悩むことはないでしょう。
さらに、音質面で見逃せないのはエフェクト処理や内部解像度の向上です。MONTAGE譲りの高性能DSPにより、複数パートにそれぞれインサートエフェクトを計16系統(リバーブやディレイ、VCMエフェクトなど多彩な90種類以上)かけても音質劣化が極めて少なく、パート間でのシームレスな音色切替(Seamless Sound Switching)も可能です。加えて、本機ではノブやサウンドエンジン処理の内部解像度が高精度化されており、フィルターのカットオフ操作やピッチベンド時のステップ感がほぼ感じられない滑らかな変化を実現しています。細かなニュアンスまで表現できるこの高解像度コントロールは、実際に触れてみると演奏表現の豊かさに驚かされるポイントです。
総じて、MODX Mシリーズのサウンド面は「モバイルサイズのボディに、フラッグシップ級の音源システムを凝縮した」と言えるでしょう。その懐の深さは、中上級シンセユーザーが「こんな音も出したい!」と思う要望にほとんど応えてくれるはずです。一方でプリセット音色も充実しており、3,000を超える即戦力サウンドが最初から収録されています(ピアノ、エレピ、シンセリード/パッド、オーケストラ、ドラムループなど幅広く網羅)。初心者の方でも難しい音作りをしなくても、買ってすぐにバンドで使えるリッチな音色が揃っているのは嬉しいですね。
強化された操作性とユーザーインターフェース
大型アップデートであるMODX Mシリーズでは、操作面の使い勝手も飛躍的に向上しています。初代MODXユーザーがパッと見てまず気づくのは、本体パネル上のノブやフェーダー類の増加です。前モデルでは4つのノブのみ(スーパーノブ+アサイナブルノブ3つ)で、一部の調整は画面タッチやボタン操作が必要でした。それがMODX Mでは8本のフェーダーと4つのノブが物理コントローラーとして並び、見た目にも豪華になりました。この8フェーダーの搭載は大きなメリットで、各パートのボリュームミキシングやFMオペレーターのレベル調整、AN-Xオシレーターのバランス調整などを直感的に行えます。ライブ中でも指先ひとつで音色バランスを操れる安心感は、従来機種を使っていた方ほど実感できるでしょう。
また、シーン切替ボタン(8つ)やパート選択ボタンの新設も見逃せません。MONTAGE同様、MODX Mでは1つのパフォーマンス内に最大8つのシーンを記憶できますが、そのシーンをワンタッチで切り替える専用ボタンが用意されました。これにより、曲のセクションごとにサウンドのレイヤー構成やエフェクト状態を変えておき、ボタン操作で瞬時に場面転換する、といった芸当が簡単にできます。シームレススイッチング対応なので音切れも起こらず、ライブでAメロ→Bメロ→サビとサウンドを変化させたいときにも心強いですね。さらに各パートのオン/オフ切替や選択もボタンですぐ行えるため、複雑なパフォーマンスを操る際の操作ストレスが大幅に軽減されています。
タッチスクリーン/UI面では、引き続きカラー液晶タッチディスプレイを中央に装備しています。画面サイズは前モデルと同等ですが、画面表示やメニュー構成が洗練され、操作レスポンスも高速化しています。例えば、新搭載の「ナビゲーション・ボタン」を押すと現在編集中のパフォーマンス構成を俯瞰できるなど、メニュー階層を行き来する手間が減りました。またディスプレイ脇の6つのエンコーダー(ディスプレイノブ)が追加されており、画面に表示されるパラメータに連動して物理ノブでも値を調整できます。モードが切り替わるとノブの役割も自動で切り替わるため、一度に複数の重要パラメータを直感的にいじれるようになりました。この「見る→触る」の流れがスムーズになったUIは、音作りの効率を格段に上げてくれます。
スーパーノブ(大型ノブ)も引き続き健在で、演奏中にダイナミックな音色変化をワンアクションで生み出すことができます。しかもMONTAGE M世代ではスーパーノブに中央位置(デフォルト値)を設定する新機能が加わっており、左右に回すことで2系統のモーフィングを実現するような高度な使い方も可能です(例えば、中央を基準に左に回すと音色Aにモーフィング、右に回すと音色Bにモーフィング、といった設定)。これにより表現力がさらに増しており、ライブでの一発芸的な効果から、繊細なサウンド変化の演出まで自在です。
加えて、演奏表現を支える各種ペダル入力も強化されています。MODX Mシリーズでは、計4つのペダル端子(フットスイッチ×2、フットコントローラ×2)を搭載。一般的なサスティンペダルやボリュームペダルに加え、もう2系統の可変ペダルを繋げるので、例えばエクスプレッションペダルでオルガン音量を足で操作しつつ、もう一つのペダルでモジュレーション(レスリーの回転速度など)をコントロール、というように手が塞がっていても足で音を操ることができます。バンドでオルガンソロを弾く際など、これは嬉しい拡張性です。
総じてMODX Mの操作性は、「演奏者目線」でかなりブラッシュアップされた印象です。物理コントローラーが充実したことでライブ中のリアルタイム音色操作がしやすくなりましたし、UIの改良で音作りや曲セットアップの時間も短縮されます。「シンセは機能が多すぎて操作が難しい…」と感じていた初心者の方にも、MODX Mはとっつきやすいインターフェースに近づいたと言えます。一方で上級者にとっては、より細かなコントロールが可能になったことで演奏表現の幅を拡げられる頼もしい相棒となるでしょう。
ライブ演奏・音楽制作への適応性
MODX Mシリーズは、ライブステージから宅録・DAW制作まで幅広く活躍できる多才さを備えています。その根幹にあるのが先述のパフォーマンスモードです。1つの「パフォーマンス」(音色セット)は最大16パートで構成され、各パートにAWM2/FM-X/AN-Xいずれかの音色を割り当て可能。鍵盤上の任意の範囲にパートをマッピングしてスプリットしたり、複数パートを重ねてレイヤーしたりと、自由自在に音色の組み合わせをデザインできます。例えば、右手でピアノとシンセパッドをレイヤーしつつ、左手でベース音を弾くスプリット設定なども簡単です。8つのシーンを活用すれば、1パフォーマンス内で楽曲の異なるセクションごとの音量バランス・エフェクト状態をプリセットし、ボタンひとつで切り替え可能です。ライブでは曲ごとにパフォーマンスを用意し、シーンで曲内の展開に対応すれば、まるで何台ものシンセを瞬時に持ち替えているかのような演出が可能になります。
また、セットリスト管理に便利な「ライブセット(Live Set)」機能も搭載されています。お気に入りのパフォーマンスを並べてリスト化し、ワンタッチで呼び出せるこの機能は、ライブ本番で次の曲の音色を即座に呼ぶのに重宝します。曲順にパフォーマンスを登録しておけば、画面の大きなタイル表示から選ぶだけなので、暗転したステージ上でも迷う心配がありません。もちろん曲名やメモを表示することもでき、リハーサルから本番まで安心して演奏に集中できます。初心者の方でも直感的にセットリストを構築できるでしょう。
演奏表現面では、ピッチベンドホイールとモジュレーションホイールに加え、アフタータッチ(鍵盤を押し込んだ圧力による変化)は残念ながら非対応ですが、代わりにモーションシーケンスやエンベロープフォロワーといった動的表現ツールが用意されています。モーションシーケンスはテンポ同期したパラメータ変化パターンを作成でき、フィルターのカットオフやアンプ音量をリズミカルに揺らすことで、打ち込み的なグルーヴをリアルタイム演奏に取り入れられます。エンベロープフォロワーは外部入力や別パートの音量変化をモジュレーション源にでき、例えばオーディオ入力したボーカルのダイナミクスでシンセパッドのフィルターを開閉する、といったユニークな演出が可能です。これらはMONTAGE/MODXシリーズならではの先進的な表現機能で、ステージでのインプロビゼーションやサウンドエフェクト的な演奏にもってこいです。
音楽制作環境との連携も万全です。MODX MはUSBオーディオインターフェース機能を内蔵しており、44.1kHz/24bitで10アウト/4インのマルチチャンネルオーディオをPCとやり取りできます。USBケーブル1本で、シンセの各パートを個別トラックとしてDAWに録音したり、PC上のソフト音源の音をMODX M経由でモニターしたりできるため、制作フローがシンプルになります。さらにMIDIも最新規格のUSB-MIDI 2.0に対応し、高解像度のベロシティやピッチベンド情報をDAWに送信可能。これにより、シーケンスの打ち込み時にも表情豊かな演奏データを余すところなく記録できます。
DAWを操作するためのリモートコントロール機能も強化されています。本体に「DAW REMOTE」ボタンがあり、CubaseやLogic Pro、Pro Tools、Ableton Liveなど主要DAW向けのコントローラーモードを備えています。トランスポートボタン(再生・停止・録音など)やフェーダー/ノブを使って、画面を触らずにDAW上のミキサーレベルやパン、ソフト音源のパラメータを操作できるので、シンセ実機をコントローラーに見立てて直感的にDAWを操れます。付属ソフトとして「Cubase AI」がバンドルされているので、DAWを持っていない初心者の方でもすぐに録音環境を整えることが可能です。
そして注目すべき新要素が、「ESP(Expanded Softsynth Plugin)」の提供です。これはMODX Mの音源エンジンをソフトウェア上に再現したプラグインで、2026年1月より登録ユーザーに無償提供予定と発表されています。ESPを使えば、ハードウェアのMODX Mが手元になくても、DAW内でMODX Mと同等の音源を呼び出し、パフォーマンスの編集やミックスを行えるようになります。つまり、自宅ではパソコン上で曲作りをし、ライブではそのままの音色をMODX M本体から鳴らすといった、シームレスな連携が可能になるわけです。これは他社にはあまり見られない画期的な試みで、ハードとソフトの垣根を超えた制作ワークフローを実現してくれそうです。
このように、MODX Mシリーズはライブキーボード兼DAWスタジオの中核として申し分ない機能を備えています。バンド演奏では、多彩な音色レイヤーで曲に厚みを加えたり、シーン機能で曲展開にドラマをもたせたりといった芸当が可能。自宅制作では、オーディオI/Fとしてそのまま録音に使え、MIDIコントローラーとしても機能し、さらにソフト連携で音色管理も簡単になるという至れり尽くせりです。「ステージでもDTMでも一台で頑張りたい」という欲張りなキーボーディストには、最高のパートナーになるでしょう。
軽量性・可搬性と価格のバランス
プロ品質の音源と充実の機能を備えたMODX Mシリーズですが、もう一つの大きな魅力がその軽量コンパクトさです。ヤマハは以前から「MOXF」「MODX」シリーズで軽量シンセを得意としてきましたが、本機も例に漏れずクラス最軽量級を実現しています【46†L63-L65】。各モデルの重量は以下のとおりです:
- MODX M6 (61鍵盤) – 約6.6kg (14.5 lbs)【18†L169-L175】
- MODX M7 (76鍵盤) – 約7.6kg (16.8 lbs)【18†L169-L175】
- MODX M8 (88鍵盤) – 約13.6kg (29.9 lbs)【18†L169-L175】
ご覧の通り、61鍵で7kgを切る軽さ、76鍵でも8kg弱という驚異的な可搬性です。これは同クラス他社機と比べても際立っています(後述の比較参照)。例えば、76鍵モデルを専用ソフトケースに入れて肩に担いでも、電車移動できるレベルの重量です。実際、MODX Mシリーズにはリュックタイプやキャスター付きの純正ケースが用意されており持ち運びの利便性も追求されています。バンドの練習スタジオやライブハウスへ、自宅から気軽に持ち出せるのは大きなアドバンテージです。機材車に積み込む際もスペースを取らず、ツアー先への宅配便発送もコストが抑えられるでしょう。
軽量化による恩恵は、単に移動の負担軽減だけではありません。鍵盤ハードケースを使わなくても済む場面が増える、ステージ上で設置しやすい、ちょっとした配置換えにも苦労しない、といった細かなストレスフリーにつながります。特にライブ活動を精力的に行うバンドキーボーディストにとって、機材の軽さ・小ささは正義です。リハから本番へのセッティング時間短縮や、片手で持てる安心感は創作以外の部分で大きな助けとなります。
次に価格面ですが、MODX Mシリーズはその性能を考えれば非常にコストパフォーマンスの高い価格設定になっています。日本国内の実勢価格(税込)はおおよそM6が17〜18万円台、M7が20万円前後、M8が24〜25万円前後となっています(2025年末時点)。旧モデルのMODX+に比べると多少の値上がりはありますが、それでも上位機種MONTAGE Mシリーズ(88鍵で50万円超クラス)のおよそ半額以下で手に入る計算です。つまりフラッグシップ級のサウンド体験を、中級機の価格帯で享受できる点がMODX Mの魅力です。
例えば、MONTAGEシリーズと同じ3エンジン+高品質音色群を備えながら、重量は約半分、価格は半分以下というのは驚異的です。もちろん、鍵盤の高級さ(後述)や出力端子の仕様など一部スペックは簡略化されていますが、純粋な音作り・演奏機能において妥協はほとんど感じられません。「MONTAGEは欲しいけど高価で大きい…」と尻込みしていた層にとって、MODX Mはまさに理想的な選択肢となるでしょう。
最後に鍵盤アクションについて触れておきます。MODX M6/M7には新たにFSB鍵盤(セミウェイテッドのシンセ鍵盤)が採用されました【31†L355-L364】。これは従来のMODXシリーズより剛性が高く弾き心地の良いアクションで、同社ステージピアノYCシリーズなどでも評判のキーベッドです。実際に弾いてみると、軽すぎず重すぎずでシンセリードやオルガンのグリッサンドも快適に演奏でき、かつピアノ音色もある程度力を込めて弾いてもしっかりとタッチに追従してくれる印象です。旧MODXより鍵盤の安定感が増したことで、演奏表現力がより引き出せると感じました。一方、88鍵のMODX M8は引き続きGHS鍵盤(グレードハンマー標準)を採用しています【46†L63-L65】。こちらはヤマハ電子ピアノでお馴染みの比較的ライトタッチなハンマー鍵盤で、88鍵ながら本体重量を約13.6kgに抑えるのに貢献しています。ピアニスト視点ではもう少し重厚なタッチが欲しいところですが、ポータブル性とのトレードオフと考えれば納得です(どうしてもタッチにこだわる方は上位のMONTAGE M8xのNWX鍵盤や他社製品も検討するとよいでしょう)。とはいえ、GHSも十分にダイナミクス表現可能な鍵盤ですので、88鍵モデルとしては類稀な「軽さと弾き心地のバランス」を達成していると言えます。
旧MODXおよびMODX+シリーズとの主な違い
ここで改めて、MODX Mシリーズが旧MODX/MODX+から具体的にどう進化したかを整理しておきましょう。前述の内容と重複する部分もありますが、主な相違点をリストアップします。
AN-X音源エンジンの追加: 旧シリーズには無かったアナログ・モデリング音源(AN-X)が新搭載。これによりバーチャルアナログシンセ的な音作りが可能になり、音色の幅が飛躍的に拡大しました。従来はAWM2とFM-Xの2音源だけでしたが、MODX Mでは3音源体制です。
波形メモリ・音色データの増強: プリセット波形ROMが約5.67GB→10.7GBに倍増し、ピアノや管弦楽音色のクオリティ向上や種類の追加が行われています。またユーザー用フラッシュメモリも1.0GB(MODX)/1.75GB(MODX+)→1.9GBに拡張され、自分でサンプルをロードしたり拡張音色ライブラリを入れる余裕が増えました。プリセットパフォーマンス数も約2,000弱から3,400以上に増えています。
ポリフォニーとエレメント数の強化: AWM2音源のエレメント数上限が8→128に大幅増加。これによりMONTAGE専用だった高度な多重サンプル音色(CP1ピアノなど)もMODX Mで再生可能となりました。ポリフォニーも、FM-X音源は初代64音→MODX+で128音になり、本シリーズでも128音維持、AN-Xは12音が追加。合計ボイス数が増え、複雑なパフォーマンスでも音切れしにくくなっています。
物理コントローラーの充実: 8フェーダーの新設(旧モデルではフェーダー無し)や、シーン/パートボタンの追加、ディスプレイノブの搭載など、ハードウェア操作子が大幅に増えています。これは見た目の操作性の違いとして最も顕著でしょう。旧MODXはノブ4つ+ボタン類のみでシンプルでしたが、新モデルは一気にツマミ類が増えて操作感が別物です。
ユーザーインターフェース・OSの進化: 画面UIが洗練され、ナビゲーションボタンによるクイックビュー機能や、タッチパネルの応答性改善など細かな改良があります。モード切替時のロード時間も短縮されており、ストレスなく音色編集やパフォーマンス切替が行えます。画面サイズ自体は同等ですが、ディスプレイノブと相まって直感的なエディットが可能になりました。
鍵盤の改善(M6/M7モデル): 61鍵と76鍵モデルの鍵盤が新しいFSB鍵盤に変更され、旧機種に比べ剛性感やタッチレスポンスが向上しています。より激しいプレイにも耐え、演奏中のブレが少なくなりました。M8(88鍵)は同じGHS鍵盤ですが、一部改良が加えられているとの情報もあります。
接続端子・拡張性: 基本的なオーディオ出力構成はステレオアウト×1系統(L/MONO, R)で旧モデルと同じです(バランス出力非対応なども同様)。しかしUSB端子がMIDI 2.0対応となり、高解像度MIDIの送受信が可能になりました。また、従来別売だったBluetooth MIDI機能が標準搭載になっています(※詳細マニュアルに記載あり)。これはスマホアプリとの連携や、Bluetooth対応のデバイスへのMIDI出力などに使えます。
バンドルソフト/サービス: Cubase AIの付属は同じですが、新たにESPソフトシンセプラグイン(前述)が提供予定であること、オンライン上での音色共有コミュニティの強化(YamahaSynthサイト上でMONTAGE/MODX M用ライブラリ配布など)が行われています。これらは旧モデル発売時には無かった展開で、製品購入後のサポートやエコシステムが充実している点も進化と言えます。
価格の変化: 前述のように価格はMODX+比で2〜3割程度上昇しています。ただしその分内容の充実が図られており、単純なコスト増以上の価値アップがなされています。ユーザーから見ると「+数万円でこれだけ良くなるなら納得」という評価が多い印象です。
(未改善点)アフタータッチ未対応: 強化点ではありませんが、上級者が気にする点として鍵盤アフタータッチは今回も非搭載です。旧MODXでも省かれていた機能ですが、残念ながらMODX Mでも実現しませんでした。競合の一部(後述のKorg Nautilus AT版やNord Stageなど)はアフタータッチ対応なので、ここは割り切りが必要です。とはいえ、代替手段としてフットペダルやモーションシーケンス等で表現は可能ですので、大きな欠点とは言えないでしょう。
以上が旧シリーズとの主な違いです。総括すれば「MODXシリーズの弱点だった部分をしっかり補強し、大幅なパワーアップを遂げた」のがMODX Mだと言えます。特にAN-X追加と操作性向上は、実機を触ったときの満足感が段違いでしょう。逆に言えば、もし旧MODXで満足していてAN-X音源が不要・操作も慣れているという方には無理に買い替える必要はないかもしれません。しかし、音作りの幅や演奏コントロール性を求める中級・上級ユーザーには、MODX Mへのアップグレードで得られるメリットは非常に大きいでしょう。「同じMODXという名前でも中身はまるで別物」——それが筆者の率直な感想です。
同クラス他社製品との比較
最新のモバイルシンセ市場において、MODX Mシリーズと競合する主な他社モデルとしてRoland Fantom-0シリーズ, Korg Nautilus, Nord Stage/Leadシリーズが挙げられます。それぞれコンセプトや強みが異なるため、一概にどちらが優れるとは言えませんが、ここではMODX Mと比較した際の特徴や違いをまとめてみます。ご自身の用途や好みに応じて、どのモデルが合っていそうか検討する参考になれば幸いです。
Roland Fantom-0シリーズとの比較
Roland Fantom-0シリーズ(FANTOM-06/07/08)は、ローランドの現行フラッグシップ「Fantom」のエッセンスを凝縮し、軽量・コンパクト&比較的手頃な価格で提供する多機能ワークステーションです。ちょうどYamahaのMONTAGE→MODXに相当する関係で、Fantom-0は上位Fantomと基本的に同じ音源システムを受け継ぎつつボディを簡略化・安価にしたモデルです。そのためMODX Mと市場で競合しやすく、実際どちらにしようか悩む方も多いでしょう。
音源アーキテクチャの違い: 最大の違いは音源方式です。Fantom-0はRoland独自のZEN-Coreエンジンを中心に、SuperNATURAL音源(主に従来のアコースティック音源)やVirtual ToneWheel(トーンホイールオルガン)といった複数の音源技術を統合しています。一方MODX Mは前述のとおりAWM2+FM-X+AN-Xという構成です。RolandはアナログモデリングやPCM音源を一体化したZEN-Coreで、YamahaはサンプリングとFM、アナログを個別のエンジンでという違いですね。
具体的に言うと、RolandはJupiter-8やJUNO-106など往年シンセのモデル拡張をRoland Cloud経由で追加できたり、バーチャルアナログもPCM波形レベルで実現しています。ただしFM音源は内蔵していません(Fantomには別売拡張も現状なし)。逆にYamahaは8オペレーターFMという強力なデジタル音源を搭載し、さらに新規搭載のAN-Xアナログモデルは標準内蔵です。RolandでもJupiterなどのクラウド拡張は有償で、購入後に追加しないといけないのに対し、Yamahaは買った時点でアナログ系まで全部入りという点は評価できます。またRolandのSuperNATURAL音源にはV-Pianoテクノロジーによるフル物理モデルのピアノ(Fantom-0では1パートのみ使用可能)やバーチャルトーンホイール・オルガンが含まれます。ピアノとオルガンに関してはRolandが専用物理モデルを持っているぶんサウンドのこだわり度が高いと言えます。Yamahaはピアノは高品質サンプリングで勝負、オルガンは専用エンジンが無いためPCM波形やFMで代用(もしくは別売のYCシリーズを使う)という形です。オルガンサウンドを多用する場合、Fantom-0はリアルなドローバーUI付きのオルガン音源を備えている強みがあります。
シーケンサー/ワークステーション度合い: Roland Fantom-0は16パートのシーケンサー(クリップベース&ピアノロール編集可能)を内蔵し、ドラムパターンを作るTR-RECスタイルのステップシーケンサーや16個の大型パッドも搭載しています。つまり、単体で楽曲をどんどん制作していける「作曲ツールとしての完成度」が非常に高いのです。Ableton Live風のクリップ再生から、従来型のリニアシーケンスまで柔軟に使えます。対するMODX Mも簡易的なパターンシーケンサー機能はありますが、本格的なMIDIシーケンス編集やドラムパッドは備えておらず、どちらかと言えば「演奏用音色セット&DAW連携」が主という位置づけです。ですから“本体だけで曲作り完結させたい”ならRolandに軍配が上がり、“曲作りはPCでやるから本体は演奏と音源に専念させたい”ならYamahaが向いている、と整理できます。Fantom-0はまさに「オールインワンの音楽制作環境」で、アイデアスケッチから本格打ち込みまで1台でやりたい人に魅力です。
操作性とUI: 両者ともカラータッチスクリーンを装備し、画面デザインはRolandはブラック基調、Yamahaは深緑基調でどちらも見やすく作られています。ただ、物理コントローラーの配置・数に差があります。Fantom-0は8スライダー+8ノブ+各種ボタン+16パッドと盛りだくさんで、特に16パッドはドラム演奏やサンプルトリガーに便利です。MODX Mは8フェーダー+4ノブでパッドはありません。あと細かな違いですが、Rolandはピッチベンドモジュレーションを統合したレバー、Yamahaはホイール2本という従来通りの違いもあります(好みが分かれます)。加えてFantom-0はアナログフィルター回路を搭載しており、デジタル音源の出音に温かみを加えることができます。ツマミひとつで効かせられるのでアナログ感を手軽に足せるのは面白い点です。Yamahaはそうしたアナログ回路は持ちませんが、エフェクトで真空管モデリングなどを使って似た効果を出すことは可能です。
鍵盤タッチ: Fantom-0の鍵盤は、61/76鍵モデルでは軽めのセミウェイト鍵盤ですがアフタータッチ非対応です(上位Fantomは対応)。88鍵モデルのFantom-08はローランド標準のハンマー鍵盤(PHA-4相当)で、こちらもアフタータッチは付いていません。MODX Mシリーズも全モデルアフタータッチ無しなので、この点はイーブンですね。ただ鍵盤アクションの質感は両社でキャラクターが異なり、Rolandはやや弾力あるタッチ、YamahaはFSB鍵盤は比較的しっかり目、GHS鍵盤は軽めのタッチです。これは完全に好みになりますが、ピアノタッチ重視ならFantom-08(PHA系)、シンセ/オルガンプレイ重視ならMODX M6/M7(FSB鍵盤)といった選び方もあるでしょう。
可搬性と重量: どちらも非常に軽量なのは共通しています。例えば76鍵同士で比べると、Fantom-07は約7.0kg、MODX M7は7.6kgとほぼ差がありません。88鍵ではFantom-08が約14.8kg、MODX M8が13.6kgで、こちらも大差ないです。61鍵ではFantom-06が6.0kg強、MODX M6が6.6kgですので、いずれにせよ双方クラス最軽量と言えます。持ち運びに関しては互角ですが、本体サイズはRolandの方が奥行き・幅がやや小さめで省スペースな印象があります(特に奥行きはFantom-0の方がスリムです)。ステージで省スペースに置きたい場合は一考ポイントかもしれません。
音色の傾向: これは主観も入りますが、Rolandのサウンドは総じて「バンド映えする派手さ・太さ」が特徴で、シンセのリードやパンチの効いたブラス、EDM系のド派手な音はお手の物です。また往年のRolandシンセ(JD, JV, D-50など)の音色もZen-Coreライブラリに多数含まれ、80〜90年代の名音色を再現したいニーズにも強いです。ピアノ音色もRolandらしい華やかさがあります。一方Yamahaのサウンドは「緻密で繊細、抜けの良いクリアさ」が持ち味で、アコースティックピアノの深みやFMパッドのきらびやかさ、リアル系ストリングスの透明感などが秀逸です。どちらが良い悪いではなく、バンドで埋もれない存在感を求めるならRoland、音の粒立ちや表現力を求めるならYamaha、という違いが感じられます。特にFM音色はYamahaの独壇場ですし、逆にクラシックなローランドシンセサウンド(Supersawやザ・シンセブラス!みたいな音)はRolandが本家です。自分の音楽性にハマる音色傾向がどちらか、という観点で選ぶのもありでしょう。
まとめ: Fantom-0シリーズは「何でも一台でやりたい」志向で、シンセ+サンプル+オルガン+専用ピアノ+シーケンサー+パッドと盛りだくさん。一方MODX Mは「演奏と音作りに特化したシンセ」で、最新3音源と高品位サウンド、軽さを武器にDAWや他機器と連携して使うタイプです。ライブ中心で、PCも駆使するのでハード側は音源&演奏マシンでOKという場合はMODX Mがハマりますし、ハード単体で曲も作り込みたいしクラシックなローランドサウンドも好きという場合はFantom-0が応えてくれるでしょう。価格帯も近いだけに悩ましいですが、自分のスタイルに合った相棒を選んでみてください。
Korg Nautilusとの比較
Korg Nautilusは、KORGのフラッグシップ・シンセ「Kronos」のコンセプトを受け継ぎつつ、UIの簡略化と価格抑制を図ったワークステーション型シンセです。発売時期的には2020年頃でMODX(2018年)より新しく、今回のMODX M(2025年)よりは少し前の世代となります。とはいえKorgのシンセ技術を結集したモデルであり、9つもの独立音源エンジンを搭載する点が最大の特徴です。Nautilusは61/73/88鍵モデルがありますが、ここでは総合的な特徴をMODX Mと比較してみます。
音源エンジンの違い: Korg Nautilus (およびKronos)は、ピアノ専用音源 (SGX-2)、エレクトリックピアノ専用音源 (EP-1)、トーンホイール・オルガン音源 (CX-3)、アナログモデリング音源 (AL-1, PolysixEX, MS-20EX)、FM音源 (MOD-7)、物理モデル音源 (STR-1)、PCMサンプリング音源 (HD-1)と、合計9種類の音源を内蔵しています。それぞれが特定の楽器や方式に特化しており、「音色によって最適な合成エンジンを使い分ける」アプローチです。一方Yamaha MODX Mは3音源(AWM2/FM-X/AN-X)に統合されています。この比較から、音源の多様さではNautilusが群を抜いています。特に物理モデリング音源(弦楽器の生っぽい振る舞いを再現)や専用オルガン音源など、Yamahaには無い領域をカバーしています。
例えば、オルガンサウンドはNautilusのCX-3音源で本格的なドローバー操作が可能ですし、エレピもEP-1音源で7種の名機を物理回路レベルで再現しています。FM音源はKorgのMOD-7では6オペレーターですが波形整形(ウェーブシェイピング)も可能な拡張型です。アナログシンセ音はAL-1とPolysixEX, MS-20EXと3種類もあり、ポリシンセからビンテージシミュまで揃います。対するYamahaはアコースティック系はAWM2の高品質サンプルで対応、FMは8オペレーターと強力ですが1種類、アナログはAN-X一本というシンプルさです。総じて「一台であらゆる音源方式を網羅したいならKorg」と言えるでしょう。
もっとも、音源が多い反面、各音源のエディット深度はKorgの方がそれぞれ専用UIとなりやや専門的です。Yamahaのモーションコントロール統合環境では、異なる音源でも共通のモジュレーション体系で扱える点で一貫性があります。一方Korgは各音源が独立しているぶん玄人好みとも言えます。例えばアナログモデリング音色を作るにも、AL-1かPolysixEXかMS-20EXかでパラメータ体系が変わります。柔軟性はピカイチですが、そのぶん使いこなしのハードルは上がるでしょう。Yamahaは音源こそ少ないものの、一つ一つが強力でパフォーマンスに統合しても扱いやすい設計です。音源の多彩さ vs 音源統合のスマートさという対比ですね。
シーケンサー/制作機能: Nautilusは前述の通りKronos譲りの本格16トラックシーケンサーやオーディオ録音機能を備えています。パソコン要らずで曲を形にできるワークステーションで、こちらもRoland Fantom同様「ハードだけで完結」路線です。パターンループやセットリスト機能も充実しており、ライブセット作成も容易です。MODX Mは基本的に外部DAWとの連携前提で、内蔵シーケンサーは簡易パターン録音のみなので、本体だけでの多重録音には向きません。この点はRolandとの比較と同様、打ち込み派ならKorgの強みが光ります。
UIと操作性: Nautilusは8インチの大型タッチスクリーンを搭載し、画面からの操作性に重きを置いています。逆に物理コントローラーは最小限で、リアルタイムコントロール用ノブは無く、Kronosにあったベクタージョイスティックやドローバースライダーも省かれました。そのため音作り・演奏中の調整はほぼタッチパネル頼りになります。これを割り切りと見るか不便と見るかは人それぞれですが、少なくとも演奏しながらツマミをガンガン操作したいタイプの奏者にはNautilusは不向きかもしれません。その点MODX Mは前述のようにフェーダー/ノブ類が豊富なので、演奏中のつまみ操作前提で作られています。UI哲学として、Korgは画面タッチ中心・Yamahaはハード操作子も重視という違いが表れています。
鍵盤とアフタータッチ: Nautilusの鍵盤は標準モデルだと61/73鍵はセミウェイト、88鍵はRH3鍵盤ですが、発売当初アフタータッチ非対応でした。2023年になってAftertouch対応の限定版 (Nautilus AT) が追加され、最近は61/88鍵でATありモデルも選べます。ただし重量が若干増え価格も上がります。MODX Mは全モデルAT非対応なので、ここはNautilus AT版のみが持つ利点ですね。ただしNordやRolandと違い、Korgは通常版ではATが省略されていた点からも、コスト優先の仕様と言えます。鍵盤アクション自体は、88鍵のRH3は重めのしっかりしたタッチ(ピアノ弾き向け)で、MODX M8のGHSより高級です。その分Nautilus88は23kgと重いですが。61/73鍵の軽量さではMODX Mに軍配(Nautilus 73が14.6kgに対しMODX M7は7.6kg)で、重量はほぼ倍違います。つまり鍵盤タッチ重視ならNautilus、可搬性重視ならMODX Mと割り切れるでしょう。
音色傾向: Korgのサウンドは「緻密さと派手さのバランス」が絶妙で、特にシンセパッドやリードは分厚く広がりがあり、効果音系も得意です。アコースティック系ではピアノも高品質ですが、ヤマハやローランドと比べると若干明るくクリアな音色が多い印象です。また複数エンジンを駆使した重厚なレイヤーはKorgの真骨頂で、9音源を活かしたサウンドは唯一無二です。Yamahaの音色は前述のとおり繊細で奥行きのあるものが多く、生楽器的表現力では一歩リードしている部分もあります。例えばストリングスや合唱の自然さなどはYamahaが上手です。一方Korgはシンセサウンドの作り込みや効果で独創性を発揮します。内蔵エフェクトもKorgは充実しており、変わり種のエフェクトで攻めた音も面白いです。総合的には、「いろんな楽器の“良いとこ取り”を一台に詰めたい」ならKorg Nautilus、「3音源にフォーカスしつつ音色クオリティや表現力を極めたい」ならYamaha MODX Mといった住み分けでしょう。
その他: Nautilusにはセットリスト機能があり、ライブ用に各曲のサウンドとメモを一覧表示して切替できます。MODX Mにも似たLive Set機能がありますが、Korgのセットリストは音色間のスムーズ切替(SST)にも完全対応し、なおかつ任意の音色/シーケンス/サンプルプレイまで登録できて柔軟です。逆にMODX MのLive Setはシンプルですが、シームレス切替は同一パフォーマンス内に限られる点で若干制約があります(パフォーマンスを切り替えると音切れする)。演奏中の利便性ではNautilusもさすが抜かりないです。
まとめ: Korg Nautilusは「Kronos級の何でもできるシンセをなるべく安く提供しよう」という思想で、音源数と機能は圧倒的。ただしUI簡略化の影響でリアルタイム操作性や軽量さが犠牲になっています。Yamaha MODX Mは「Montage級の音質/機能を軽量化して届ける」というアプローチで、機能の絞り込みが功を奏し軽さと操作性を両立しています。作り込み派・重量気にしないならNautilus、演奏派・持ち運び重視ならMODX Mという図式でしょう。価格帯的にはNautilus 73鍵が実売28万円前後、MODX M7は20万円弱と結構差がありますので、その点でもMODX Mのコスパは際立ちます。「ヤマハ3音源 vs コルグ9音源」、どちらに魅力を感じるかで選んでみると良いでしょう。
Nord Stage/Leadシリーズとの比較
最後に、北欧発の老舗ブランドNord(Clavia社)のキーボードとも簡単に比較してみます。Nordはワークステーションではなくステージキーボードのカテゴリーですが、バンドの現場ではMODX Mと比較検討されることも多いです。有名なのはNord StageシリーズやNord Leadシリーズでしょう。
Nord Stage 4(最新世代)を例に取ると、このキーボードはピアノセクション・オルガンセクション・シンセセクションの3つを備え、それぞれをレイヤー/スプリット可能という設計です。音源的には、ピアノは専用サンプルライブラリ、オルガンはトーンホイール/ビンテージオルガンの物理モデル、シンセはNord Wave2エンジン(バーチャルアナログ+サンプル+簡易FM+ウェーブテーブル)という構成になっています。要するに生ピアノ・エレピに強いステージピアノ+本格オルガン+汎用シンセを一体化したものです。Nord Leadシリーズはシンセセクションに特化した4パートマルチのバーチャルアナログシンセで、ピアノ/オルガン音源は含みません。
MODX Mとの違い: Nord Stageは「ライブ演奏の即戦力」に特化しているため、物理ノブ/ボタンでほぼ全操作が完結します。各セクション毎に独立したパネルがあり、例えばオルガンは物理ドローバー(LED付きフェーダー)で音作りし、シンセもオシレーター〜フィルター〜エンベロープまで並んだノブで直感調整できます。この一対一の操作体系はステージ上で瞬時に音色をいじるのに最高で、画面メニューを掘る必要がありません。MODX Mはどうしても画面+ノブの組み合わせで操作する部分があり、Nordのような完全な「つまみ直感操作」とは異なります。ただしNord Stageは音色の懐の深さではMODX Mに及びません。同時発音数やレイヤー数は限られ(Stage 4は各セクション2レイヤー×3セクション=6パート程度)、音源タイプも3種類に限定されています。FM音源は2オペ程度の簡易的なものしか無く、本格的なFMシンセの領域はカバーしていません。シーケンサーも搭載しておらず、完全に「演奏する音を作る/選ぶ」ための道具です。したがって、サウンドデザインの幅広さではMODX M、演奏中のつまみ操作性ではNord Stageという棲み分けになります。
音色傾向: Nordのサウンドといえばまずピアノ・エレピ・オルガンの音色がプロから高い評価を受けています。専用ピアノ音色は容量こそ数GB程度ですが妙に生々しく、「バンドで混ざったときに存在感のあるピアノ」だと定評です。オルガンは言うまでもなくB3やVox、Farfisa等の実機さながらのサウンドとトーンホイールの挙動を再現しており、物理ドローバー操作と相まってエレクトーンさながらの演奏体験が得られます。シンセ部もアナログライクな太さとNord独特の抜けるフィルターサウンドが魅力です。対するMODX Mはピアノも高品質ですがNordほどクセのある「鳴り方」ではなく、オルガンは前述通りPCMベースなので、生々しさはNordに一歩譲ります(リアル志向なオルガンサウンドはYamahaの場合YCシリーズの担当です)。シンセ音作りではNordはクラシカルな引き出しが多く、MODX Mはモダンな手法(FMやモーションシーケンス)も使えるといった違いがあります。要は、Nord Stageはオルガン/エレピ/ピアノを中心にシンセも少々という「鍵盤奏者の定番音色特化」、MODX Mはシンセ/オーケストラ的な音も含めた「オールラウンドな音色対応」と言えるでしょう。
ハード面・価格: Nord Stageは筐体が金属製で非常に頑丈、その分重く価格も高価です。最新Nord Stage 4の88鍵は実売60万円近く、73鍵でも50万円前後と、MODX Mの2倍以上します。これはもう別クラスの楽器と言えますので、実際にはMODX Mと直接比較するユーザーは限られるでしょう(予算が全然違うため)。ただNord Lead(例えばA1)なら4オクターブのシンセで20万円弱と価格帯が近く、軽量(5kg程度)なので比較対象になるかもしれません。Nord Lead A1は純粋なバーチャルアナログシンセで、16音ポリ・4パートのマルチティンバー仕様。操作はほぼ全ノブ、音作り簡潔、でも奥は深いという名機です。MODX MのAN-X音源と比較すると、Nordの方が「生々しいアナログ感」があり音が前に出る印象、AN-Xはモダンで洗練されたアナログ像という印象があります。とはいえNord Lead系はあくまでシンセ専用機でピアノやストリングス音色は出せませんから、できることの総量ではMODX Mが勝ります。
アフタータッチ: Nord Stage 4は88鍵・73鍵モデルがアフタータッチ対応(三段階センサー鍵盤)であり、表現力を求めるプレイヤーに応えています。MODX MがAT無しなので、鍵盤表現ではNord有利です。またNord Stageはペダル類も充実(3本ペダル対応しハーフダンパーやペダルノイズも表現)でピアノ的演奏には強いです。
まとめ: Nord Stage/Leadシリーズは「割り切ったシンプルさと演奏特化で勝負」の製品です。音色や機能を盛り込むよりも、鍵盤奏者がステージ上で扱いやすいよう設計されています。対してMODX Mは「最新テクノロジーで何役もこなすマルチプレイヤー」です。比較するというより、用途が違うと言った方が適切かもしれません。もしあなたがジャズ/ブルースやロックでオルガン・ピアノを弾き倒したいタイプならNord Stageが理想でしょうし、ポップスや劇伴で多種多様なシンセサウンドを駆使したいならMODX Mが応えてくれるでしょう。ちなみに両方を使っているプロも多く、ピアノ・オルガンはNord、シンセやストリングスはMODX Mという組み合わせも鉄板です。最終的には、「何を重視するか」で選んでみてください。どちらも魅力的なキーボードであることは間違いありません。
おわりに
ここまでYAMAHA MODX Mシリーズのレビューと、競合機種との比較をお届けしました。MODX M6/M7/M8はいずれも、軽量さと高性能を両立した素晴らしいシンセサイザーだというのが総合的な感想です。実際に触れてみると、フラッグシップ譲りのリッチな音が次々と飛び出すのに、本体は驚くほど軽く扱いやすいというギャップに感動します。操作系も直感的で、ライブでもスタジオでも思い通りにコントロールできました。
初心者の方にとっては、数多くのプリセット音色が用意されているので買ったその日から憧れの曲の音色で演奏できますし、軽量なので自宅練習からスタジオ持ち込みまで気軽です。上級者の方にとっては、3つの音源を駆使した深遠なサウンドデザインや、他機材・DAWとの連携による高度なセットアップも思いのままです。「MONTAGEの性能をもっと手頃に持ち出したい」「妥協なく音作りできて運搬も苦にならないシンセが欲しい」——そんなニーズにMODX Mシリーズはピッタリ応えてくれるでしょう。
もちろん完璧ではなく、アフタータッチ非搭載や内部シーケンサー簡略化など割り切りもあります。しかし、それらは“このクラスに求めるものは何か”を突き詰めた結果の潔い選択とも言えます。事実、MODX Mは演奏と音色クオリティに全振りすることで、他に代え難い個性と価値を手に入れています。
本記事で触れたRoland, Korg, Nordの製品もそれぞれ魅力的で、どれが優れているというより長所のベクトルが違うだけです。MODX Mシリーズは、その中で「軽さ」「多音源によるオールマイティさ」「ヤマハらしい表現力」を武器に、一つの完成形と言える仕上がりになっています。ぜひ店頭で実機に触れて、そのサウンドと手触りを体験してみてください。きっと、軽く鍵盤を押さえた瞬間に広がる音の世界にワクワクが止まらなくなるはずです。
MODX Mシリーズ、あなたの音楽制作&パフォーマンスにとって心強い相棒になること間違いなしの一台です!

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