電子楽器の信号をミキサーや録音機器へ直接送りたい場合、DI ボックス(Direct Injection Box)が役に立ちます。ほとんどのシンセやキーボードはアンバランスでハイインピーダンスの出力を持つため、そのまま長いケーブルで送るとノイズが混入しやすくなります。DI ボックスは以下の役割を果たします。
- インピーダンス変換 – ハイインピーダンスの楽器出力をマイク入力に適した低インピーダンスへ変換し、負荷を適正化する。
- バランス変換 – アンバランス信号をバランス信号に変換することで外来ノイズを打ち消し、長いケーブル伝送でもクリーンな音を保つ。
- グランドループ対策 – DI ボックスのトランスは直流成分を遮断し、グランドリフトスイッチにより入力と出力の接地を切り離すことでグランドループによるハムを低減できる。
- レベル調整 – 出力が強すぎる場合にはパッド(減衰)スイッチで−15 dBなどの減衰を挿入し、ミキサー入力の歪みを防ぐ。
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パッシブとアクティブの違い
| 特徴 | パッシブDI | アクティブDI |
|---|---|---|
| 回路 | トランスのみで変換、電源不要 | 回路内にプリアンプがあり電源が必要(48 Vファンタム電源や電池) |
| ノイズ対策 | トランスにより直流を遮断するためノイズやグランドハムに強い | 電子回路のためノイズ遮断能力はトランスに劣るが、高いインピーダンス入力を実現できる |
| 出力特性 | 強い入力を自然な飽和で処理し、わずかなコンプレッションが得られる | 入力をブーストするため出力を高くでき、パッシブ楽器に適する |
| 適した楽器 | アクティブ回路やラインレベル出力を持つ楽器(キーボード、アクティブピックアップのギターなど) | パッシブピックアップや低出力の楽器(パッシブのベースやアコースティックギターなど) |
| 利点 | 電源を気にせず使用でき、内部トランスがグランドループを遮断する | 高い入力インピーダンスでパッシブ楽器の音質を維持し、プリアンプ効果で明瞭な音を得られる |
キーボードにはどちらを選ぶ?
多くの電子キーボードは内部にプリアンプやバッファ回路を備え、ラインレベルの強い出力を出します。そのため、キーボードなどのアクティブな楽器にはパッシブDIを使うのが一般的です。パッシブDIのトランスは高出力を自然に処理し、グランドループを遮断するためステージ上のノイズ対策にも有効です。一方、パッシブ・ピックアップを持つギターやベースにはアクティブDIが適します。
キーボードはステレオ出力を備えるモデルが多いので、L/R 2チャンネルを1台で処理できるステレオDIを選ぶと便利です。パーマーの解説では、ステレオDIはキーボードやシンセサイザーのアンバランスなステレオ信号を2本のバランス出力に変換し、独立したグランドリフトやパッドでノイズを抑えると述べています。
グランドリフト機能の仕組み
複数の機器が違う電源コンセントに接続されている場合、保護アース間にわずかな電圧差が生じ、その間を循環する電流がノイズ(ハム)として混入することがあります。これをグランドループと呼びます。DI ボックスのグランドリフトスイッチは、XLR出力端子のピン1(シールド)を切り離し、機器間のアース経路を遮断することでループ電流を止め、ハムを除去します。この機能はほとんどのパッシブDIに搭載され、パッシブDIの多くはグランドリフトを備え、電子キーボードのように独自のアース経路を持つ楽器のノイズ除去に役立ちます。
一方、グランドリフトは根本原因を隠す応急処置と考えましょう。DIボックスでハムが出た場合、グランドリフトでノイズを消せるが、どこかに配線や機器の異常がある兆候なのでサービス後に原因調査を行うべきです。
キーボードとDIボックスの接続方法
- 出力と入力の確認 – キーボードのライン出力(L/R)を短いフォンケーブルでDI ボックスの入力に接続します。ステレオ出力の場合はステレオDIを使用し、L/Rごとに接続します。
- スルー出力の活用 – DI ボックスには入力信号をそのまま通すスルー端子があります。ステージ上のモニターアンプやキーボード用アンプに音を送る場合は、スルー端子からアンプへ接続し、XLR出力をPA卓へ送ります。
- XLRケーブルでミキサーへ – DI ボックスのバランスXLR出力をミキサーやオーディオインターフェースのマイク入力へ接続します。長距離のケーブルでもノイズの混入を抑えられます。
- パッドの使用 – キーボードの出力が強すぎる場合は、DI ボックスのパッドスイッチ(−15 dBや−20 dB)を有効にして過大入力による歪みを防ぎます。
- ファンタム電源に注意 – アクティブDIを使う場合は48 Vファンタム電源または電池が必要ですが、パッシブDIではファンタム電源を受けないのでキーボードを保護します。キーボードを直接ミキサーに接続する場合にファンタム電源が送られると故障の原因になることがあるため、DI ボックスを介すことで安全性が高まります。
ノイズが出た時の確認手順
キーボードとDI ボックスの組み合わせでノイズやハムが生じた場合、以下の順序で確認すると原因を特定しやすくなります。
- ケーブルと接続の確認 – 無音や出力不足の原因の多くはケーブルの接続ミスや不良です。入力ケーブルを誤った端子に差し込んだり、アクティブDIの電源を入れ忘れたりすると音が出ません。まずはケーブルを交換し、接続順序とパッドスイッチの状態を確認します。
- 電源と設定の確認 – アクティブDIを使用している場合はファンタム電源や電池が十分か確認します。音量が小さい場合はパッドやゲイン設定を見直します。
- グランドループの切り分け – ハムノイズが聞こえる場合は、DI ボックスのグランドリフトスイッチをオンにしてアース接続を切り離します。グランドリフトでノイズが消えた場合は、電源コンセントのアース電位の違いが原因と考えられます。機器は可能な限り同じ電源タップから供給し、異なるコンセント同士でループを作らないようにしましょう。グランドループを解消する最初の手段は、接続機器を同じ壁コンセントから給電しアースの電位差をなくすことです。
- ステレオとモノラルのチェック – キーボードの出力がバランス(TRSまたはXLR)かアンバランス(TS)かを取扱説明書で確認し、適切なケーブルを使用します。アンバランス出力を長距離伝送する場合は必ずDI ボックスを介してバランス化します。
- ノイズ源の特定 – グランドリフトでノイズが消えても、元の原因を放置すると再発します。グランドリフトでハムが消えた場合でも、演奏後に配線や楽器のアース不良などの根本原因を点検することを勧めています。特にギターや古い機器のアース線が緩んでいる場合は修理が必要です。
- 同じ電源への集約 – 複数の機器が異なるコンセントから電源を取っている場合は、可能な範囲で同じ電源タップから給電してループ面積を減らします。機器を同じコンセントに集約することでアース電位差をなくし、グランドループ電流を防げると説明しています。
まとめ
DI ボックスは、キーボードを含む様々な電子楽器とミキサーを安全かつノイズレスに接続するための必需品です。パッシブDIとアクティブDIの違いを理解し、楽器の出力特性に応じて適切なタイプを選びましょう。グランドリフト機能はグランドループによるハムを素早く解決できますが、原因を把握してシステム全体を改善することも大切です。ノイズ発生時にはケーブルや設定を順に確認し、電源の共有やバランス接続で再発を防ぎましょう。これらの知識を身につけておけば、キーボード・プレイヤーでも安心してクリーンなサウンドを届けることができます。



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